大工道具に生きる / 香川 量平
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白鷹幸伯氏の鍛冶玄能高知県台重の舟手型玄能白鷹幸伯氏の鎚103なったのである。」 以上が立て札に書かれている殺生石に纏まつわる伝説話である。名僧の源翁和尚が殺生石を打ち碎いたことにより石工が使う石割の大 が玄能と呼ばれるようになったのであるが、その名付けの親は源翁和尚である。 大工が使用する玄能の種類には、大玄能、中玄能、小玄能、豆玄能などがあり、大工は仕事によって、その玄能を使い分けている。玄能は叩く面が両方にあるもので、一方は平で鏡と呼び、もう一方は木殺し面といい中高となっている。鏡の面で鑿の頭を打ち、木殺し面で板など打ち、釘を追い込む。鏡の面は名の通り、いつも光っていなければならない。建具職人や彫刻職人が使う「ダルマ玄能」は使い勝手の良い様に玄能鍛冶に作らせたのであろう。また鍛冶職人が使う玄能は、ヒツ穴が中心よりずれているのは玄能の「ふれ」を止めていると白鷹幸伯氏は言う。昔から瀬戸内の舟大工が使っている片口玄能がある。舟手用と呼び、釿などと同じく岩国型と呼ぶ。物を叩く面が一方であるから金鎚であると思うが、瀬戸内では片口玄能と呼んでいる。しかし、使い勝手が良いので大勢の大工がこの片口玄能を使用している。 玄能を選ぶには姿と形、そして右と左のバランスが良く、ヒツ穴が大きくなく完全にうまく抜けていることが大切で、自分の腕力と体力に合せ、一生ものだから高級品のものを選ぶ。越後の玄能鍛冶、故長谷川幸三郎氏の鍛えた玄能か、同じく三条の洞心斉正行氏の玄能が現在、好評である。 玄能の柄は白カシが良いとされているが一番良いのが「カマツカ」(別名カマノエ、ウシコロシ)が最高と昔から言われている。ウシコロシとは恐ろしい名だが、カマツカの枝の細い部分が牛の鼻はなご子に使用されているところからこの名がある。この木で作った柄は掌に熱を持たさず、汗を引き、折れず曲らず、古い昔から大工が愛用してきた最高の柄である。また柄のすげ方は自分の手になじむ様、試行錯誤を重ねることが重要。柄の抜け知らず法は、乾燥が第一で、一週間かけて、すこしづつ追い込む。最後にエポキシ樹脂系の接着剤をぬり、中央部に鉄の割楔を打ち込み固定する。柄の長さは、個人差があるので玄能の頭を握って腕の長さ迄が最適。昔から玄能の柄に割楔を打っている大工は下手とされたが、外国製のハンマーにすべて鉄の楔が打ち込まれているのは実用性に富んでいる。(削ろう会会報61号 2012.03.19発行)

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