大工道具に生きる / 香川 量平
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美しいエンタシスの柱東大寺の「合成柱」東大寺の柱穴(内部に芯材と割材が見える)131節)の材が使われる。木には「官材」と「民材」とがある。官材とは国有林の材のことで木曽五木のヒノキ、サワラ、アスヒ、コウヤマキ、ネズコなどが全国一位の官材である。民材とは民間人の山から産出されるものである。桧の香には「フィトンチット」と呼ぶ成分が含まれ人間の体に対し効能があるといわれている。 私の隣の町に古い旧家がある。その家の座敷は8帖間が田の字形となっている。その中央の柱は桧の4寸5分角で、結婚式や仏事などで人寄りの時に、その柱が抜きとられると座敷は32帖の大広間と早変りする。昔、家の主人は、その柱の名前を「都柱」とも「長者柱」とも言っていた。 木造建築で美しい柱といえば、法隆寺の中門や金堂に建つ「ふくらみを持つ柱」であるが、その柱を「エンタシス」と呼んでいる。辞書などでは【Entasis】円柱の中ほどに付けられた、わずかなふくらみ。視覚上の安定感を与えるために施す。ギリシャ、ローマ、ルネッサンス建築の外壁面の柱に用いた。法隆寺の金堂の柱なども、これに属する。胴張。と説明している。 法隆寺は1993年に世界遺産として登録されている。また、世界最大の木造建築である奈良の東大寺の大仏殿も1998年世界遺産として登録されている。我が国の木造建築の技術の高さを世界の人々が評価したのである。 現在の大仏殿は元禄時代に三度目の再建がされたが、その当時すでに太い建築材が欠乏していたのか間口が3分の2となっている。江崎政忠氏が調査した東大寺の柱の総数は60本で柱の芯木が146本で柱の周囲を巻く割材が3,200本であると説明している。柱を作るのに芯木の上から割材約50枚で巻き、鉄の金輪で締めつけた「合成柱」である。 また、島根県の出雲大社の境内で、平安時代の末期に建てられたという本殿の「宇豆柱(棟持柱)」と「心の御柱」の柱根も発見された。大社に伝わる「金輪造営図」と一致したという。柱は太い丸太を3本、金輪で結束したもので「金輪柱」と呼び、その柱根が9本あるという。高さは48mもあったそうだ。「雲、和、京」という言葉がある。雲とは「雲太」と呼び、出雲大社のことで、和とは「和二」と呼ぶ東大寺のこと、京とは「京三」と呼ぶ京都の大極殿のことである。その当時の建造物の高さを誇っていたという言葉である。(削ろう会会報70号 2014.07.07発行)

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