大工道具に生きる / 香川 量平
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十畳の場合の畳の敷き方(右は畳の敷き込み順)「木造建築事典」より134 「隅々で大工をそしる畳刺」という古い川柳がある。畳刺とは畳職人のことであるが、畳の寸法をとりにきた畳屋が、隅々の直角の悪さに驚き「へぼ大工め」と罵っている風情を詠んだものであるが、この川柳の作者は、世の大工に対して「もうすこし正確な大工仕事をしろ」と忠告した一句なのである。 畳の寸法は地方によって「京間」「中京間」「江戸間(田舎間)」の3種類に、ほぼ統一されている。京間という畳は、関西方面で主に使われているので「関西間」とも呼ぶ。縦幅が6尺3寸で、横幅が3尺1寸5分で厚みが1寸8分という寸法に規格されている。また中京間と呼ぶ畳は「あいの間」とも呼ぶ名古屋方面で使用され、6尺と3尺で厚みが1寸7分という寸法である。江戸間(田舎間)は関東地方から北陸地方で使用され、縦幅が5尺8寸で横幅が2尺9寸、厚みが1寸6分で「関東間」と呼ぶ。 私が一番最初に注文を受けて建てた入母屋造りの住宅は、施主からどの部屋の畳も自由に敷替えが出来るよう指示されていた。香川県では、京間畳の寸法に合せて各部屋の柱の位置を決めるという「敷間寸法」というのがある。また、柱の寸法によっても「延び」「締め」という寸法があり、それによって柱の位置が決まるのであるが、その「延び、締め」が記されているのを「角つのま間」と呼んでいる。そして角間の寸法を記した尺杖がある。簡単に角間寸法を説明すると、4寸角の柱を使って建てた8畳間は、柱芯が13尺であるため、柱の内幅は四方とも12尺6寸となる。6尺3寸−3尺1寸5分の京間畳、8枚はピッタリと収まる。しかし6畳間では13尺の柱芯は良いが、9尺7寸5分の柱芯では、畳は収まらず、角間寸法である「一寸延び」の9尺8寸5分の柱芯にしなければ京間畳は収まらない。そのように角間寸法が記されている尺杖が不可欠となるのである。 畳の敷方には「祝儀敷き」と「不儀敷き」とがある。床前で、長手を床の間に平行に敷くのを祝儀敷きと呼び、「不儀敷き」とは、葬儀の折などには、畳をすべて縦に敷き替える事を言うのである。縁起の悪い凶がすべて土間側に流れ去るように願った敷き方で、香川県では「流れ敷き」と昔から呼んでいる。6畳間には3尺1寸5分角の畳が4枚、敷替用に用意されている。この流れ敷きを地方によっては「いも敷き」とも「たて敷き」とも呼んでいるが、この場合、部屋が広く見えるからとも言われている。 山田幸一監修、佐藤理著の『畳のはなし』の裏表紙には「畳は、素材を藁と藺草、それに布と紙と木を少量付け加えて形成された、平安時代の昔から住生活には切り離すことのできない床材である。個々の素材の耐久性は、いずれも短命であるにもかかわらず一個の畳として形づくられると半永久的なものに変化するという摩訶不思議な建築材料でもある」と述べられている。(削ろう会会報71号 2014.09.29発行)

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