大工道具に生きる / 香川 量平
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品目種類斑犀尺木尺メートル測定曲尺換算0.9768尺0.9768尺0.9735尺1.4685尺0.9768尺0.9768尺 上の数値は、測定の年月がそれぞれちがい、測定した人も異なり、したがって測定に用いた尺度も同一でない139鏤尺」1枚と木尺(木のものさし)1枚が出展されていた。この紅牙は長さ29.7㎝、幅2.3㎝、厚み0.75㎝で北倉の紅牙尺と同類である。木尺は白檀製の1尺5寸のものさしで、木裏を使い、中央に一条の線を刻し、1分、5分、1寸の目盛をきざみ、銀泥を入れる。一分目盛は3寸ごとに上下交互にし、両端から5寸目のところには、それぞれ銀泥で花蝶鳥文を描き、装飾上の配慮をみせている。一端に小孔をうがつ。本品の1尺は29.7㎝、紅牙撥鏤尺と同様、天平尺の標準値を示す、ちなみにこの尺の幅は一寸となる。長さ44.5㎝、幅3.0㎝、厚み0.95㎝であると説明している。この白檀の木尺は江戸時代の末期、伊能忠敬が「大日本沿海輿地全図」を作成するにあたり、折衷尺を作るが、その折、この正倉院の木尺の寸法を参考にしたかもしれない。 平成12年、第52回目の正倉院展に北倉より「白びゃくげのじゃく牙尺」1枚と中倉より「斑はんさいじゃく犀尺」1枚が出展されていた。白牙尺は長さ29.7㎝、幅3.6㎝、厚み1.0㎝で、解説書には次のような説明がされていた。緑牙撥鏤尺と同様に赤せきしつぶんかんぼくのおんずし漆文欟木御厨子に納められて伝来した。『国家珍宝帳』に白牙尺2枚とあるものが2枚現存するが本品はその内の1枚にあたる。白素地ままの象牙を整形し、刻線で寸、分の目盛を入れる。もともと一対として製作したものとみられ、本品の刻線にはエンジ色を、もう一方の尺には緑色を差している。裏面は素地のままである。実用の物差しと考えられる。当時の尺は唐大尺により、一尺は曲尺の「0.98尺」にあたる。 中倉より出展されていた「斑犀尺」は長さ29.5㎝、幅2.8㎝、厚み0.8㎝で犀角のものさしである。説明文には次のようにある。斑犀尺は犀角を材料にした物差し。犀角のうち、地文が濃淡のまだらになるものを、とくに斑犀という。本品は表面に1寸、5分、1分の3種の目盛を刻んでいる。刻線には朱を入れた上に金箔をおす。宝庫には19枚の尺が現存する。その内、儀式用の撥鏤尺八枚と、腰につるした装身具としての小尺5枚を除いたこの斑犀尺を含む6枚が奈良時代の標準尺である。ただし、本品は他に比して少し短い。本品を含む中倉の1尺差し7本は縦横1尺強の漆皮箱に納められて伝わった。 また、中倉より斑犀尺の小尺(腰飾り)が出展されていた。長さ5.9㎝、幅1.4㎝、厚み0.3㎝で、紐の長さ約21.5㎝で犀角製の2寸のものさし形をした腰飾りである。片面の両側に1寸目と1分目を線彫りしている。全体がわずかに曲り、宝庫の他の犀角製の宝物と同様、ところどころに虫喰いによる損傷がある。宝庫には斑犀尺1枚、碧瑠璃製、黄瑠璃製各2枚の長さ2寸から3寸の小尺が全部で5枚伝えられている。これらはいずれも一端に小穴があり、この斑犀小尺では白い丸打ち紐が通してある。また、別の碧瑠璃小尺の一枚は、それぞれの紐が途中で連繋されている。これは、これらの小尺が実用のものさしではなく、腰につるす佩はいしょくぐ飾具であったことを示している。奈良時代の貴族は、唐の官吏の風にならって腰飾りとして刀とうす子、魚形、小尺、合ごうす子などをさげた。宝庫には小尺のほかに、それらの腰飾りが伝えられている。 『正倉院よもやま話』の著者、松嶋順正氏は「正倉院宝物より見た奈良時代の度量衡」と題して次のように述べている。 「我が国の尺度は飛鳥時代には高こまじゃく麗尺を用いた。それは曲尺の一尺二寸に相当する。大宝令では高麗尺を大尺として測地に限って用い、唐の大尺を小尺として使用させたが、和銅六年の完成によって小尺を大尺とし、その六分の五を小尺とした。したがって正倉院の尺は唐の大尺によるもので、今の曲尺の0.9768尺にあたる。 正倉院蔵の尺はすべて19枚、うち8枚は紅牙撥鏤尺が6枚、緑牙撥鏤尺が2枚で一寸区画のある一尺さしである。5枚は斑犀尺1枚、碧瑠璃尺、黄瑠璃尺が各2枚で、二寸ないし三寸の小尺である。撥鏤尺は唐のいわゆる鏤牙尺と称する儀式の尺であり、小尺は腰間につるした装身具であるから、それらの尺を除き、残りの六枚の尺がこの時代の標準尺と考えられるので、これを対象として当時の尺度を求めることにしたい。 ただし、未造了白牙尺二枚は寸分の目盛が施されていないが、一尺の長さが、まったく北倉の白牙尺と同寸法であるから採用することとした。この六枚の尺を測定した数値は、次の表のとおりである。所在北倉白牙尺(甲)一尺ざし29.6㎝北倉白牙尺(乙)一尺ざし29.6㎝中倉29.5㎝一尺ざし中倉一尺五寸ざし44.5㎝中倉未造了尺(甲)一尺ざし29.6㎝中倉未造了尺(乙)一尺ざし29.6㎝

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