大工道具に生きる / 香川 量平
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福井藩主の花押(福井市立郷土歴史博物館所蔵)142ての質は、芯の部分がよく、周囲は質がややおちる。「鯨の歯」鯨の仲間でも抹まっこうくじら香鯨だけは歯が生えている。この歯が特上の印材である。象牙のように長いものではないので、一歯から一本ないし数本の印材しか採取できない貴重品である。材質は象牙より硬く、美しい最上質のものだが、数が少ないために一般には知られていない。「マンモスの牙」シベリアで最近発掘され、輸入されている。完全な凍土に埋もれているものは、象牙と比肩しうる程の材質である。印材だけに使用するのであれば、今後の需用にも応じられるのでないか、との期待がある。[木質印材]木質の実用印材は割合に少ない。柘つげ植・白びゃくだん檀・黒こくたん檀ぐらいで、他の木は雑印で使われる。「柘植」木質印材の代表的なもの。木目が綺麗なので印面に木地ができないこと、木にねばりがあって繊細な細工に向いていること、木のなかでは一番かけにくいことなど、木印に適した長所を持っているため、木の印となると大体、柘植材が使われている。「白檀」柘植にくらべると材質が脆い欠点があるが、独特の芳香が好まれ印材として求める人も多い。「黒檀」木口もしっかりしているし漆黒の木肌はとても魅力的である。印面は他の材に比べると欠けやすい。「竹材」日本の竹産地としての最北端になるあたりで、小町竹という竹が生えている。これは不思議なことに芯まで肉がつまっていて、印章として使うことができる。竹の切断面のフォルムの面白さと相まって、画家や文人が好んで使った。[角印材]象牙・柘植と同様によく使われている印材に水牛の角がある。この水牛で代表される角材も印材の中では重要なものである。「水牛」象牙に次いで貴重な印材である。黒色のものが多いが、なかには淡色のものもある。丈夫で加工もしやすく長期の使用に耐える。欠点は乾燥による、ひび割れのあることである。「オランダ牛」淡黄緑色の美しい印材。オランダが集積地として世界に輸出されたので、集積地のその名称がついている。洋服のボタンや櫛の材料として世界中で愛用されている。水牛よりやや安い。「シープホーン」赤色の淡い色で、最近登場してきた印材である。ヒマラヤ地方に生息する羊の角から採った印材で材質も美しく、かなりの硬度があって水牛に次ぐ印材として期待されている。「鹿角」毎年、生え替わる鹿角を加工して使えれば材料にこと欠かない。鹿角を印材にするのは資源として最良だが柔らかい欠点がある。[石印材]実用印章に使う石材は、印面欠損の問題があるので、数多い石材のなかでも何種類かに限定される。「水晶」昔、山梨県で水晶が大量に採取され、水晶の加工のため、山梨一帯に印章業者が集まるようになった。今でも全国の印章の五割をこの地域で生産している。水晶は純度の高い結晶石で、透明な美しさは類を見ない。ガラスのように蒸気でくもることもない。西洋占星術などで水晶の玉を使うのは、あの透明の球体に宇宙が映しだされる感があるからであろう。印にしても上部から印面が透けて見えると何とも美しい。欠点は印面が欠けやすいこと、硬くて加工が難しいことである。「虎目石」青系統と黄系統の虎目石が印材になっている。どちらも美しい肌を持っている。一般にも、よく使われている。硬い石に属する。「砂しゃきんせき金石」側面から見ると、赤茶色の中に砂金のような金色が輝いて美しい石である。宝石の輝きに印を彫りたい、という気持を起こさせるような魅力がある。「瑪めのう瑙」特に硬度の高い石。生の瑪瑙は乳白色だが焼くと美しい紅色に輝く。他に黄茶色、ブルーと色の種類も多く、美しい。イタリアの金加工職人は、この石で金を磨く。(以下、略) また、印相については、あまり、こだわらない方が良いとも説明している。(削ろう会会報74号 2015.06.29発行)

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