大工道具に生きる / 香川 量平
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中国民家の火伏の壷雷神の図(京都 建仁寺蔵)146 その58  雷らいこう公(雷)と火伏の話 昔の人々は「雷」を生きものと考えてか「雷らいこう公」などと呼び、雲の上で虎の皮の褌ふんどしをしめ、雨雲を呼び、稲妻を光らせて雨を降らせ太鼓を打ち鳴らし、人間さまの臍へそを取るというので子供たちを怖がらせた。昔から雷公に纏まつわる昔話が数多くある。ある村で雷公が雨雲を踏み外し、農家の井戸に転落した。それを見た農夫は、すぐさま井戸に蓋をして雷公を閉じ込めた。「天に帰してくれ」と頼む雷公に農夫は掛け合った「以前、お前は大事な桑畠を焼き、蚕を死なせたではないか、一体どうしてくれるのだ」と厳しく詰めよる農夫に雷公が言った「それは悪いことをした、これからは桑原、桑原といえば、そこには絶対におちない」と誓ったので約束は成立し、雷公は無事に天に帰った。その約束の言葉が今に伝えられて雷よけの呪が「くわばら、くわばら」と言うのだそうだ。 鎌倉時代の説話集の中に『今昔物語』がある。その中に雷公を捕らえた話がある。神融上人という偉いお僧さんが雷公を取り押さえて、灌漑用の水を田畠に与えるならば天に帰すという約束で良い水を得たという話があるが雷と水とは切っても切れない関係にあるところから、そのような伝説話が生まれたのであろう。 中国の雲南省のシーサンパンナに行くと、どの家の棟にも中央に壷が置いてある。「あれは何の呪だ」と聞くと「雷よけと、火伏の呪だ」と答えた。どの家も杮こけらぶきであった。 中国にも雷公の話がある。聞一多氏の『伏犠(羲)考』の中に、古代中国の最初の皇帝であった伏ふぎ羲は雷神の子であり、伏羲と女じょか媧が夫婦であったが、兄妹の関係でもあったという民間伝説もある。大雨が降り続き、風も烈しく雷鳴がとどろいた。家では、こうもあろうかと鉄籠を用意して待っていた。はたして雷公がやって来て、うまく鉄籠の中に入った。父は翌朝、町に行って香料を買い、雷公を殺して塩漬けし、飯のおかずにすることにした。父の出かけたあと、兄妹(伏羲と女媧)は雷公を助けてやった。雷公はそのお礼に自分の歯を一本抜きとり、「早くこれを土の中に埋めなさい。もし災難があったら、実った果実の中にかくれなさい」といって天上に飛び去った。兄妹が雷公からもらった歯を土の中に埋めると、やがて新芽が生え、みるみるうちに大きくなり、一日のうちに花が咲き実がなった。そして翌朝には大きな葫蘆(ひょうたん)になっていた。やがて大洪水が襲って来て、天空にまで達した。この大洪水のために地上のあらゆる人類は死滅した。しかし、兄妹は葫蘆の中に入って助かった。人類唯一の生き残りである。これは古代中国の神話で、広西省融県羅戒の伝説話である。 我が国では稲妻を「いなだま」などと呼び古い昔か

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