147ら霊的なものと結合して稲穂を実らせると農家の人々は信じていた。ある農家の古老からは「稲妻は稲の夫つまであるから田植が終わってからの稲妻は稲の実入が良くなる。それは稲妻が大気中の窒素肥料を無償で天から稲作に配布してくれるので、稲の夫つまである」と昔、聞いたことがある。 第31回全国削ろう会の神戸大会に掲げていた大会のカンバンは松本裕一委員長が吉野の山中から雷に打たれた200年ものの杉の古木を探し出してきたものと言う。四国地方では、そのような木を「あまり木」と言って大変に重宝がっている。人々は家を新築するとなると、施主は大工に依頼して御祝儀を渡し、その「あまり木」を上具材のどこかに組み込んでもらうのである。あまり木を組み込んだ家には、落雷や失火などが無く、その霊力により火伏の呪となり、すべてのものが余りきて、その家は増々栄えている。 大工の棟梁たちは落雷を恐れた。特に宮大工が建立する大きな建物は避雷針などが無い昔には落雷によって焼失した例が全国各地に数多くある。我が国の建物はすべてが木造であったため、昔から大工の棟梁たちは火を恐れていたのである。そのため、水の神である「天あめのみくまりのかみ都波能売神(罔象女神)」の三柱の神々を「火伏の神」として棟梁たちは厚く信仰し、上棟式に供える棟札には「聖しょうしゅてんちゅうてん主天中天、迦がりょうびんがしょう等今敬禮」と書き付け、火伏の呪歌である「霜柱、氷の軒に、雪の桁、雨の棟木に露の葺き草」も書き付ける。この火伏の解説は会報68号の「大工道具に生きる その50」(124ページ参照)に記載している。 法隆寺の蔵本である『愚ぐしけんき子見記』の三の巻に上棟式の折、大工道具を使って「水」の字を形成し、火伏の呪とすることが記載されている。上棟式の祭壇の前に奉書を敷き、その中央に墨壷の糸を垂らし、左側に指金を置き右側に釿を置いて「水」の字とする。そして、棟梁は水神である三柱の神々を、その家に宿らせて、火伏を願い、修祓の儀を行うのである。 また、「火難除水草」という火伏の呪を行うのは一般の住宅の場合に多い。桧の3寸巾の板を魯般尺の吉寸である1尺2寸に2枚切り、水草をはさみ入れて、水引をかけ、上棟した棟木の中央部の下場に取り付けるのであるが、これも火伏の呪の行事の一つでもある。また、『匠しょうかこじろく家故実録』には「水神」である罔象女神ならびに八大龍神は、鎮火災の神禱りて祭る也と記述されている。之水分神」「国くにのみくまりのかみ陵頻伽聲、哀あいみんしゅうじょうしゃ愍衆生者、我がとうこんきょうらい之水分神」「弥みずはのめのかみ 静岡県周智郡春野町に秋葉山神社がある。この神社は古い昔から「火伏の神」として全国にその名が知られている。『神社紀行』によると祭神は之迦具土神」である。神代の時代、伊いざなぎのみこと「火ひのかぐつちのかみ邪那岐命と伊いざなみのみこと邪那美命が国産みを終えて、そのあと神々を産むが最後に生んだのが火の神であった。伊邪那美命は女陰に大火傷を負って、この世を去ってしまう。伊邪那岐命は嘆き悲しみ、我が子である「火之迦具土神」を十とつかのつるぎ拳剣で斬り殺してしまう。しかし、幼子の血が剣と石に飛び散り、今も鋼と石によって発火するのだという。第43代の女帝であった元明天皇の歌がある。「あなたふと秋葉の山にましませる、この日の本の火防ぎの神」の歌で知られる秋葉神社は火伏の霊山として古くから参拝者が多い。 江戸をはじめ各地で都市化が進み、もっとも恐れられていたのが火事であった。ひとたび大火となれば数千人単位で庶民が罹災し、家もろ共に財産を失うのであるから、人々は秋葉大権現を分祠し、秋葉山常夜燈を村の境に建て、かまどの近くに秋葉山の御札を貼って火難よけを祈ったのであるという。昔、京都の御所を火の手から守ったという秋葉山の天狗の伝説話が書かれている。昔、京の御所に火の手が迫ってきた。公家たちが、さし迫る猛火の前にうろたえていた。一人の男が「遠州秋葉山の秋葉大権現は火伏で有名と聞く、その御霊験におすがり致してはどうか」と叫んだ。公家たちは、さっそく帝に奏上。天皇が「秋葉山大権現に正一位を授ける」と述べられるやいなや、天狗が現れ、御所に駆け上り、羽団扇を打ちふるって猛火を鎮めたという遠州に伝わる伝説話が伝えられている。 京都市右京区嵯峨愛宕町に火伏の愛宕神社がある。『神様事典』によると、愛宕神社は「延喜式神名帳」では「阿多古神社」とあり、火の神を祀る秋葉神社に対して火の神に焼かれて亡くなった伊邪那美命を主祭神とする。火の神としての性格が与えられたのは、当社が京都の西北、つまり裏鬼門の方角にあたり、しばしば雷雲が発生したためであり愛宕太郎坊の名で親しまれるようになった。現在、4月28日には鎮火祭を行っている。なお、秋葉信仰では火之迦具土神だけ祀って火伏を強調しているが、愛宕神社は伊邪那美命のほかに、稚わくむすびのかみ産霊神、埴はにやまひめのみこと熊人命、豊とようけひめのかみ宇気毘売神を祀る。このように火伏に加え、本宮の五柱の神が祀られる神々の神徳、すなわち、五穀の守護神たる点にも重点を置いているのは、古来より人々が火で山野を焼き、いわゆる焼畠耕作を行って五穀の収穫を得ていたためであろうと説明している。山姫命、天あめのくまひとのみこと
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