夫婦鋸(竹中大工道具館蔵)中国の山中にて夫婦鋸著者所有の鑼(ががり)畔挽鋸(松田 豐さん蔵)52は硬い鋸を「はしかい鋸」と呼び、あまい鋸を「なまくら鋸」と呼ぶ。 私が大工の見習に入ってすぐのことであった。親方が「そこの『やりとり』を取れ」と言ったが、その名前の道具が理解できず思案していると、「のこぎり」だと怒鳴られた思い出がある。「やりとり」というのは「台切鋸」のことで、二人挽の大型横挽鋸のことである。別名「夫みょうとのこ婦鋸」とも呼ばれる。鋸に喩えた言葉に「鋸あきない」とか「鋸屋根」などがあるが、大工が使う鋸には数多くの種類がある。 神戸の竹中大工道具館の各種鋸の解説書によると、 (1)穴あなひきのこ挽鋸/片刃、横挽、尺三寸から尺六寸が普通。「鼻丸鋸」ともいう。丸太の端を切り落としたりする荒仕事に使う。歯が「イバラ目」のため部材を斜めに挽くときにも使う。(2)挽ひきわりのこ割鋸/片刃、縦挽、尺三寸から尺六寸が普通。挽割には、木挽用挽割、大工用挽割、舟手挽割の三種がある。それぞれ形が異なる「ブッキリ」ともいう。材の大割用に使う。(3)舟ふなてひきわりのこ手挽割鋸/片刃、縦挽、尺二寸から尺四寸が普通。「鯛型」「舟手鯛型」「舟手」などとも呼ばれる。もともと舟大工が舟板の接合面の擦り合わせなどに使う鋸だが、大工道具でも挽割鋸の代わりに使うようになった。(4)鑼ががり/八寸から尺三寸が普通。斜めに柄を付けたものと、真っすぐに柄を付けたものとがある。前者は主に材の大割用に使い、後者は主に小割用に使う。(5)挽ひっき切り/片刃、横挽、八寸から尺三寸が普通。通称「キリ」とも呼ばれる。横挽に使う。(6)両りょうばのこ刃鋸/両刃、横挽、縦挽、八寸から尺二寸が普通。鋸身の両側に縦挽き、横挽き両種の鋸歯をつけた、縦挽・横挽兼用の鋸。明治30年頃から全国的に普及した。(7)穴あなひきりょうばのこ挽両刃鋸/両刃、横挽、縦挽、尺から尺三寸が普通。荒仕事に使う。横挽用は「イバラ目」で穴挽鋸と同じ機能を持つ。(8)胴どうつきのこ付鋸/片刃、横挽、八寸から尺が普通。鋸身は薄く、背金で補強してある。歯は細かく、挽肌は平滑で精密な加工に適する。精巧な小細工の組手加工に使う。(筆者註:縦挽きの目を刻んだのもある。)(9)畔あぜひきのこ挽鋸/両刃、片刃、横挽、縦挽、二寸から三寸五分が普通。両刃は鴨居挽と畔挽(片刃、横挽)が合体したもので明治以降普及し、現在では畔挽といえば100%両刃のものをさす。部材の途中から挽き込むことができるため、部材の中間に溝(小穴)を加工するときなどに使う。
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