大工道具に生きる / 香川 量平
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用途不明鋸(玉鋼製)19世紀フランスの製材鋸(竹中大工道具館蔵)下駄職人の鋸なぎがま(忍者鋸)用途不明鋸58良いようにするのが一番である。大工が造作用に使用する9寸、8寸、胴付鋸などは片手挽で鋸の重みでさがるのを良とする。四国では蝶々鋸と呼ぶ畔挽鋸や挽廻しの小さな鋸は片手挽などでなく、両手を使わないと仕事の能率が上がらない。 最近替刃式鋸の進出で、日曜大工の家具作りやリフォームなどの木工技術が向上した。理由は鋸が良く切れるのと「ビス」止めするからという。プロの大工も替刃式の鋸を使う者が多くいる。鋸の目立が必要でなく、格安であり、良く切らすからであるが、大工の現場では捨てられた鋸が泣いている。松山の白鷹幸伯氏は「鋸鍛冶のお性根が宿っていないから仕方ないのさ」と私に言ったが、その通りである。しかし私は、もう一度この鋸刃が再生できないものかと考える。 大工の鋸挽仕事も電動丸鋸によって昔の苦労は解消したものの、職人の大切な指先を切断している者が多い。義理人情のない電動丸鋸は油断が禁物である。また石材店などでは堅い花崗岩を見事に切断する「ダイヤモンド刃」の威力には驚かされる。木を切る、石を切る、私たちの日常生活の中では「キル」という言葉が多く使われている。人間や馬の前歯は別名「切り歯」と昔から呼ばれ、噛み切るのに都合よくできている。「切る」という語源はここからきている。 この世の中に数多くいる木工職人は自分に合っている便利な道具を作り出している。広島県田島町の太鼓の胴抜きに使っている「ステッキ鋸」は堅い欅を見事に挽き抜くのには驚く。また京都の木村砥石店に昔、天然砥石の原石を切断する二人挽の鋸がある。鶴鋸と呼ばれるもので、名前の由来を聞くと、鶴が羽根を広げた格好に良く似ているので、この名前が付けられているそうである。昔木造船を作っていた船大工は、船板のハギ目を摺り合わせる「摺鋸」や「突廻鋸」などがある。 昔の木工職人が使っていた変わり鋸が多くあるが次第に消え去ろうとしている。私は名もない古い鋸たちを掘り起こそうと考えている。鋸は古代から現代まで、斧と共に一番役立った道具であると、私は考えている。(削ろう会会報33号 2005.02.14発行)

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