大工道具に生きる / 香川 量平
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碓氷金三郎作 鉾鑿(前場資料館蔵)追抜鑿宮大工用 鐔鑿(白鷹幸伯氏蔵)鑿の使用風景(春日権現験記より) 三代助丸作(前場資料館蔵)73工は、この鋼のつくりを「カスガイ」と呼んでいる。また、叩きの平鑿などに裏切れが生じると、鉋の裏出し同様に叩き出している大工がいるが、鑿の性質を知らぬ者のすることで、叩き割る例が多い。鑿の裏透きには二枚透き、三枚透きなどがあるが、鑿鍛冶がデザイン的に考案したものである。越後(新潟県)の碓氷金三郎氏が鑿裏に鉾の形を彫り出している見事な鑿がある。「鉾鑿」と呼ぶ、実用品ではなく鑑賞用として鍛えたものであろう。また、首廻しとも、じく廻しとも呼ぶ鑿がある。代表的な作品に三代善作のじく廻しの寸六鑿がある。見た目には美しいが、私が使っていて、廻したところからポキリと折れたことがある。しかし外国人が墨流しや、じく廻しの鑿を好んで購入するそうである。最近替刃式の鑿が市販されている。使ってみると堅い節に行き当たったとき、替刃が真っ二つに砕けてしまった。鑿の替刃式は無理のようである。 鑿には研ぎづらい5厘鑿(1.5㎜)や1分鑿(3㎜)がある。上手に研ぐ方法に「甚五郎研ぎ」が昔からある。1寸角(3.03㎝)を切れ刃角に切り、中央部に鑿を通して角材と共に研ぐ方法である。また、大阪府豊中市の田中秀昭氏が鑿を研ぐ治具を図面入りで会報「削ろう会34号(2005.5.16発行)18.19頁」に説明している。実にうまく考えられている。平成の甚五郎研ぎ器である。丸刃の研ぎに「支那研ぎ」という技法がある。砥石に対して直角に廻しながら研ぐ方法である。横研ぎともいう。大工は丸刃の研ぎは、廻しながら砥石に対して引き下がって研ぐ者が多くいる。最近、御殿場市の武藤千秋氏が5厘鑿から1尺の大鉋刃までが見事に研げる「万能研ぎ器」を考案し、特許出願中であるという。秋の三条市の削ろう会にはお目見えするという。今より心待ちにしている次第である。 (削ろう会会報39号 2006.07.31発行)

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