大工道具に生きる / 香川 量平
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80言っていた。水研ぎであるため刃物の焼入を痛めることがなく、刃毀れなどはすばやく研ぎ上げることができたが、その後足踏みから動力に変わったので砥石を借りるとよく注意されていた。この丸い水砥石は水槽に浸っているため著しく強度が低下して、割れて人身事故が起きる危険性があるので注意を促している。また岡田昭次郎氏は「砥石を丸砥として回転して使用することは、世界各地で行なわれた。イギリスでは『未亡人作り』という別名が付けられたほど危険なものである」と説明し、天然砥石を湿式で回転して使う時は注意するよう「回転砥石への移行」の中で述べている。 刃物の刃毀れなどによく使用するのが人造の荒砥と呼ぶ金剛砥石である。この金剛という名称の由来についても岡田昭次郎氏は奈良県の金剛山北部から二上山近辺が石ざくろいし榴石の産地で、人工の砥とりゅう粒が開発されるまで、その石榴石を細かく砕いて荒砥石を製造していたので、その砥石に金剛という名前が付けられたという。また鑿の刃裏や鉋刃の裏押しに「金砥石(かなばん、ともいう)」と共に使用する「金こんごうしゃ剛砂」という名称も、その名残を今にとどめているのだという。石榴石というのは「ガーネット」と呼ぶ鉱石で、全国各地から産するが、その中でも特に有名なものが「鉄ばん石榴石」で、美しく大粒のものを磨き上げると宝石となり、1月の誕生石として人々に喜ばれる。その他の細かいものは砕いて研磨剤として利用される。それを「超砥粒」と呼んでいる。また19世紀にアメリカで発明されて開発した「A砥粒(人工の研磨剤)」は前号で述べたように、「ボーキサイド(アルミニウムの重要原料)」を溶ようゆう融すると「インゴット」と呼ばれる黒い鋳ちゅうかい塊となる。それを細かく砕いたのがA砥粒で、もう一種の「WA」と呼ぶ人工の砥粒がある。それらの砥粒は「アルミナ」で、それに天然の粘土を混ぜ合わせ、ベンガラや鉄分を含む粘土を入れて色を変化させ、圧縮して型ぬきし、1300℃で焼き上げると人造の金剛荒砥石が出来上がるという。 鉄工、造船、木工と数多くの職人が研ぐ荒砥石に動力の「グラインダー」がある。昔は砥といしぐるま石車とか回転砥と呼んだ。回転方向に反対ネジで円形の荒砥石が取付けられている。この砥石は金属、特に鉄製品を素早く研削するが、研ぐのではなく、鉄を削り取るという役目を果たす砥石である。大きな刃毀れや鉋刃の耳とりに大工は使用するが、高熱を持つので高級な刃物の研磨には要注意である。また研削中に砥石が割れて、昔から人身事故がよく起きている。安全カバー無きものは使用せず、保護メガネの着用も怠ってはならない。 最近、人造ダイヤモンド砥石の進出で素人が鑿など見事に研ぎ上げているのに驚くことがある。しかし鉋刃や鑿の裏押しには便利だが鋼はがねに深いダイヤの「研ぎ目」が残り、研ぎ上げるのに苦労する。特に鉋刃を裏押しすると、熱で焼きが戻り、極度に切れ味が低下するので要注意である。♯300番という人造ダイヤモンド砥石は中砥などの砥面直しには最適のようである。また鑢やすりなどにもダイヤモンド鑢があり、将来は人造のダイヤモンドが広く諸道具に普及するだろう。 最近、石材業界で使用されている大型の円形ダイヤモンド砥石で硬い花崗岩を見事に切断しているのに驚く。またIC産業界では「ダイヤモンドホイル」と呼ばれる各種の人造研削トイシがある。超硬工具、セラミック、ガラスの研削加工、石材、コンクリートなどの切削加工に幅広く利用されている。特に半導体産業の生命線となっている「ダイシングソー」と呼ぶ砥石を製造する会社の記事を新聞紙上で読んだが、この小さな円形の回転刃はダイヤモンドの微粒を特殊なボンドで固めた極薄の人造砥石で出来ており、毛髪を縦断面に22枚に分割でき、また宇宙船のアポロ11号が持ち帰った「月の石」を薄く切って調べる際にも使われたという。この砥石の技術力の高さに驚く。手で研ぐ砥石などとは縁遠い話であるが、人間が作り出した砥石としては世界一であろう。しかしこれらのすべてに砥石と名が付けられているので、手で研ぐ砥石たちの仲間といえるであろう。 中砥の天然砥石は前号でも述べたが、現在ではほとんどが人造もので、天然ものは幻の砥石と呼ばれているものが多い。幸い「削ろう会」の会員である瀬戸山氏が「中砥石と歩いた三十年」と題した記事を会報に掲載されているのは、後輩たちに大変参考になることであろう。 さて、鉋刃を見事に研ぎ上げ、何ミクロンという見事な「削り華」を出すため、研ぐたびに中砥の砥面を修正するのに苦労するが、最近の人造ダイヤモンド砥石では研究を重ね、砥面を修正することなく、天然の中砥と変わらぬ製品が開発されていると聞く。立ち遅れているのが鉋刃だという人がいる。鉋刃の裏出しなんか、時代に遅れている。裏出し不要の鉋刃が開発されてずいぶんになるが、その後少しも改良されず、そのままである。鉋鍛冶は急速に改良を進め、一般の人、誰もが鉋を簡単に取り扱えるような鉋刃の製作に取り組んでもらいたいものである。 「女房貸しても仕上砥は貸すな」という大工言葉が

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