その39 建築のよもやま話(4)89ばれる木々がある。「ヒノキ」「サワラ」「ネズコ」「アスナロ」「コウヤマキ」で、これらを木曽五木と呼ぶ。しかし木曽谷の美林も近いうちに姿を消すかも知れないという危機感があるという。古代の素戔一族の植林集団が「早く植林をしろ」と天国から下界に向けて叫んでいるように思える。 樹木の寿命はいつまであるのだろうか。鹿児島県の屋久島の縄文杉が3500年といわれてきたが、実際には2200年で、天寿を全うした樹木では、シデの木が150年、ブナ300年、カラマツ600年、ナラ2000年、イチイ3000年などが記録に残っている。世界一の樹齢の木といえば、アメリカの「ブリッスルコーン松」で、4600年という。キリストが誕生したとき、この松はすでに2600歳であった訳だ。人間の命なんてこの木から見れば、マッチ一本が燃え尽きるほんの僅かな、儚いものなのである。 我が国の木造建築に使われる材料には昔から「黒木」 最近、書店には数多くの建築雑誌が出回り、また建築工務店は依頼を受けた住宅が完成すると内覧会を開いて、手作りの良さを人々に見ていただいている。また、大手のハウスメーカーは展示の住宅を建て、一年中人々に見せている。そんな関係から人々の建築知識は、ずいぶんと向上している。しかし、建売住宅などではなく、自分の家を建てようと図面を作成してみたが、「便所の位置が不安だ」と言って相談に訪れる人がいる。仮図面に北の方位が印されているので東西南北を引き出し、表鬼門(北東)と裏鬼門(南西)の位置を赤線で印して、この位置に便所を作るのを避けるよう説明する。 昔、便所を増築するという依頼を受け、施主の書いた図面を見ると、スッポリと表鬼門にかかっているので位置を変えるように言ったが、その主人は聞き入れず、「鬼門は迷信だ」と言い、後々に祟りがないよう願いつつ工事を完成させた。しかし不思議なことに、その一年後、この主人は50歳の若さでこの世を去った。気を悪くしたのは家の人々で、大工の私が鬼門と知りつつ工事を行なったのが原因していると人々に吹聴され、後々の工事で大きな痛手を被ったことがあ「赤木」「白木」の3通りに分けられる。黒木とは茶室などの床柱に使われる皮付きの丸太材をいう。赤木と呼ぶのは、数寄屋建築や床柱などに使う樹皮を剥いだ磨き丸太を指す。古い昔には木肌が赤味を帯びたものを赤木と呼んでいたようである。白木は製材して製品化されたもの。樹木を製材すると美しい杢目が表われる「木もくり理」とも樹相とも呼ぶ。杢目には板目杢、中杢、笹杢、鶉杢、蟹杢、玉杢、葡萄杢、縮れ杢など数多くある。玉杢は円を連ねた模様でケヤキ、クスに多い。鶉杢はウズラの羽状の模様で屋久杉、ネズコに多い。縮れ杢は繊維が縮れている模様でトチ、カエデに多い。鳥眼杢は鳥の目玉のような模様でカエデ、マツなど。笹杢は笹の葉のような模様で銘木の杉に多く、天井板に使われる。虎とらふ斑は繊維が直角の縞状でミズナラに多く見られる。まだ多くの杢目があるが、どの杢目も世界で一つしかないものである。る。「鬼門、金神、我より祟る」という昔の諺があるが、死の原因は鬼門を甘く見た主人にもあると思う。 讃岐(香川県)には「辰巳の玄関、戌亥の弁才」という諺がある。辰巳の玄関というのは「大工道具に生きる その37」(85ページ参照)で説明したが、戌いぬい亥は北西の方位で蔵や便所は吉である。弁才天は讃岐では便所の神とされ、「ベライテンサン」と呼ぶ。この女神は七福神の一人で、音楽、弁財、財福を司り、妙音天とも美音天とも呼ばれる。元々は天竺(インド)で河の神とされ、学問、芸術の守護神で、最も尊崇された女神であり、我が国では吉祥天と混同され、福徳賦与の神とし、弁財天と称され、今も人々より厚い信仰を受けている。 便所を「厠かわや」と呼ぶ人が今もいるが、昔は川の上に小屋を建てて、用便をなしていたので「川屋」と呼んでいたが、転じて厠と呼ぶようになったという。現代の水洗便所の先駆者のようなものである。 人間が生きていくためには厠は不可欠であるため、古い昔から厠には神が存在していると言っていた。「広辞苑」では、厠を守護する神は「埴はにやまひめ山姫」と「水みずはのめ罔女」の二神であると説明している。この女神は古代の神話に登場する神で、日本書紀には「伊いざなみのみこと之迦具土神」を生もうとしたとき、その熱で病んで吐いた。それが神と邪那美命」が火の神である「火ほのかぐつちのかみ (削ろう会会報45号 2008.03.10発行)
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