大工道具に生きる / 香川 量平
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中国寺院の屋根著者が建てた入母屋二階建の住宅94地震から守るため下家で外廻りを囲み、中央部は欅の大黒柱や向大黒で、がっちりと組み合っているので100年住宅と呼ばれる名に相応しい。 この八尾建ての屋根をどのようにして村人たちに美しく見せるか、それは大工が最初に引く型起しにある。大工の見習いでいた頃、親方にきつく叩き込まれているので、それを思い出すと、上屋根の引き通し勾配は6寸勾配で中央部の撓たわみは「雨ころがし」と呼ばれる寸法が昔からある。1尺に対し3分という寸法である。この雨ころがしというのは雨縁の水捌け勾配で1尺に3分さげておけば水捌けは十分だと昔から決められている寸法を撓みに利用するのである。仮に引き通し勾配が10尺とするならば、中央部の撓みは3寸という計算になる訳だ。また尾棰の反りは軒先の引き通しより3寸5分反らすが、瓦を葺き、鬼瓦を取付けると尾棰の先端は瓦の重みで5分あまり下っているので、実際の反りは3寸となる。社寺建築などでは千鳥破風の入母屋造りの引き通し勾配は7寸5分で中央部の撓みは尺に対して3分という雨ころがしの寸法が使われている。また、起むくり屋根の雨ころがしの寸法は尺に対して2分としている。屋根を美しく見せるには妻側の屋根勾配や軒先の棰の出、破風付の位置、尾棰の振れ隅の取付く位置が大切な要素となるが、入母屋造りの妻側は、その家の顔であると昔から呼ばれてきた。見事な「しおり勾配」、そして千鳥破風の形、木きつね連格子の組み方などが妻側で一目に判るので家の顔であり、大工の腕の善し悪しが判断される場所でもある。 千鳥破風については色々と説があるが、千鳥が飛ぶ恰好に似ているからと言われるが、私の親方は千鳥は海神お遣いで家を火災から守護する火伏せの呪いから、この名が付けられていると聞いている。木連格子を「狐格子」などと呼ぶ大工がいるが、書いて字のごとく、木が連なって組み上っているのでこの名がある。 勾配の話にもどるが、大工の刃物の研磨角度にも最良の角度や勾配がある。突き鑿は22度から24、5度で、約4寸5分勾配。叩き鑿は24度から30度で約4寸5分から6寸勾配となる。鉋刃は約30度前後だから約5寸5分勾配だが、木材の硬さや刃物の種類によって一口に何度とか何寸勾配とかは言いきれない。(削ろう会会報58号 2011.06.06発行)

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